七宝焼とは①

京七宝Note -記憶の糸をたぐる -

ご存知の方も多いかと思いますが、七宝焼の基本的なところについて少しお話させて下さい。 
七宝焼とは、基本的に金・銀・銅・鉄などの金属素地にガラス質の釉薬を盛り(施釉)約700~800℃前後で焼き付け装飾したものをいいます。

金属工芸の一種とされ伝統工芸のひとつでもあります。

金属素地のほかに、陶胎(陶器を素地とするもの)やガラス胎の七宝もありますが、通常使用される七宝の釉薬は、素地となる金属に対して膨張率などの条件がそれぞれ最適になるよう原料配合して作られることから、金属素地以外の胎については、制作方法や耐久性などに少し違いが出てくると思われます。

※おそらく、それ専用の釉薬があると思います。

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一般的に金属胎には銅を使用することが多いです。

上記の写真は、銅板に銀張り植線などの下準備作業を行った後、
銅胎の上に釉薬をさした(施釉)直後のもの。

その後に焼成するのですが、多くの場合はこの工程で
「施釉→焼成→施釉→焼成→施釉→焼成…」と、何度か同じ作業を
繰り返し行っています。

 f:id:wayuplus:20200408145628j:plain  七宝焼用電気炉

さて、七宝焼の場合、釉薬を知ることはとても大切なことだと思っています。

実は、七宝焼釉薬の色のその多くは特性が異なります。
作り手はその特性を理解し把握した上で制作に向き合っています。

焼き上がりの色はどのように変化するのか、最終的にはどんな画面に仕上がるのか?

f:id:wayuplus:20200407140653j:plain  七宝焼釉薬

釉薬はガラス質の砂状のものです。制作の際には水や精製水を浸して使用します。

釉薬の種類としては透明色・不透明色・半透明色など豊富な色が存在します。
メタル釉・銀用釉・本七宝釉(立体釉)など制作する作品にふさわしい釉薬の種類もそれぞれ存在しています。
また、それらは融点が高温になりすぎず扱いやすいように計算されて作られてきました。

 

しかし、それでも、それぞれの釉薬は微妙に異なる性質を持っています。
例えば、焼成前の色と焼成後の色がまるっきり違うものに変化したり、
隣り合う色や重なりあう色同士の関係で想定していた色に変化が起こってしまう場合もあります。

また、その釉薬の色ごとに焼成時の融点が違ったりもすることから、
作り手はそれぞれの釉薬の個性を見極め焼成の温度や時間をみながら、
様々なことがらを総合的に判断し作業を行っていく必要があるのです。

 

熟年の作家さんは長年の経験からそのことを自然に身につけておられます。

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つまり、釉薬の色のそれぞれの特性や必要な条件を理解しておくことで、作り手が自由な発想で色彩をコントロールし自身の制作に繋げていくことが可能となります。

それ以外にも、金属胎との相性の関係でヒビが入ったり剥離するなどの失敗を未然に防げるようにもなるのです。

 

私も最初のうちは、そんなこともわからずに失敗を繰り返しました。

 

そんな予期せぬ化学反応を逆手にとった技法もありますが、
技術以外のそういった点においても七宝焼は化学的知識と経験を要するものなのです。

f:id:wayuplus:20200405163858j:plain  千の京華 by wayuplus+

とはいえ、七つの宝石に匹敵するほどの美しさが求められる七宝焼においては、材料となる釉薬の色彩の美しさへの追求は然るべき重要な課題です。

現在でも原料を1から配合して釉薬を作られる方もおられますし、
日本には過去から受け継がれてきた秘伝の釉薬を大切に保管されているところもあるようです。

化学の知恵を借りて存在してきた美しい七宝焼

そういった意味において、七宝焼は化学とは決して切り離しては考えられない工芸でもあります。

化学者の協力なくして七宝焼はありえない。

七宝焼きは、すなわちサイエンスといえるのではないかと思います。

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